行動経済学の礎を築いたダニエル・カーネマン


 ダニエル・カーネマン (1934年3月5日 - 2024年3月27日、享年90)

 心理学と経済学の架け橋となったダニエル・カーネマン。彼の業績は、人間の合理性に疑問を投げかけ、私たちの意思決定過程における認知の歪みやバイアスを明らかにしました。特に、彼と長年のパートナーであるエイモス・トベルスキーと共に発表した「プロスペクト理論」は、行動経済学の礎を築いたとされています​​​​。

経済学に心理学を融合したダニエル・カーネマン

エピソード
1)イスラエル軍での直感に関する研究:
 カーネマンはイスラエル国防軍で心理学者として勤務していた時期に、士官候補生の選抜方法を改善する任務を担いました。この経験から、「直感の妥当性の錯覚」や「極端な予測への傾向」など、後に彼の研究の基礎となる概念を発展させました。彼は、一見明確な直感や観察が、実際には正確な判断や予測につながらないことを実証しました。これらの体験は、彼が直感的判断や意思決定プロセスに関する後々の研究の方向性を定める重要な要因となりました​​。

イスラエル軍での直感に関する研究

2)ナチス占領下のフランスでの子供時代:
 ダニエル・カーネマンナチス占領下のフランスでの幼少期を過ごしました。彼は、この時期の体験が彼の心理学への興味に大きな影響を与えたと述べています。特に、人々が極限状態でどのように行動するか、そして人間の心理がどのように複雑で予測不可能であるかについての洞察を得ました。ある日、カーネマンがダビデの星を隠して外出した際、ナチス兵に遭遇し、この兵士が彼に対して示した意外な優しさは、彼に人間の複雑さについての深い洞察を与えました​​。

ナチス占領下のフランスでの子供時代

3)経済学との出会い: カーネマンが経済学と心理学の交差点に関心を持ったのは、エイモス・トベルスキーとの出会いがきっかけでした。二人の協力関係は、行動経済学の分野における画期的な発見へとつながりました。彼らの研究は、人間は常に合理的な行動をするという従来の経済学の常識に疑問を投げかけました​​​​。

その他

・著作、理論: 
著書『ファスト&スロー ~あなたの意思はどのように決まるか?~』は、彼の研究を集約したもので、当時ベストセラーにもなり、多くの人々に影響を与えました。この研究では、心には二つのシステムがあり、一つは速く直感的なもの、もう一つは遅く理性的なものだという見解が示されました​​。

プロスペクト理論」は、「人は損失を回避する傾向があり、状況によってその判断が変わる」という意思決定に関する理論です。何十年にもわたり経済学を支配してきた合理性に関する仮定を覆し、多くの不可解な行動の背後にある論理を解き明かしました。例えば、なぜ人は価値の下がった株式の売却を拒むのか、なぜ少額の商品を買う時は節約のために遠くの店まで車を走らせるのに、高価な商品を買う時は同じように節約しないのか、などといった行動です。

・受賞歴: カーネマンは、2002年にノーベル経済学賞を受賞しました。これは、行動経済学と実験経済学の新しい研究分野を開拓した功績に対して与えられました​​。さらに、2013年にはバラク・オバマ大統領から大統領自由勲章が授与されました​​。

まとめ

 ダニエル・カーネマンの一生は、好奇心と情熱に満ちていました。彼の業績は、私たちが現実社会をどのように知覚し、解釈し、そして行動するかについての理解を深めました。彼の理論と洞察は、心理学と経済学の両方で今もなお影響を与え続けています。カーネマンの遺した知識の宝庫は、未来の学者たちにとっても、貴重なガイドとなるでしょう。彼の功績は、ただ学問的な成果に留まらず、私たち一人ひとりの日常生活における意思決定にも、深い影響を与えています。